
- STEP 03準備・手続き
- [検討時期の目安:開業7ヵ月〜3ヵ月前]
歯科医院のスタッフ採用と開業までのスタッフ研修・トレーニング
開業時に採用するスタッフは、医院の運営基盤を支える非常に重要な存在です。しかし近年、歯科業界では人材不足が深刻化しており、採用活動がますます難しくなっています。そのような状況の中で、開業時にどのように採用活動を進めるのか、また採用時の手続き、関連する研修・事前トレーニングなどについて解説をします。
目次
開業時のスタッフ採用について
スタッフ採用の選考基準は、院長の方針や理念によって異なります。特に重要なのは、その基準が歯科医院のコンセプトに適しているかどうかです。患者さんにとっては、院長だけでなくスタッフも「医院の顔」であり、その印象が医院全体のイメージにつながります。ミスマッチが起きないように採用活動を進めましょう。
採用開始から開業までのスケジュール
各職務に必要なスタッフの人数を考える
採用活動を始める際には、まず必要なスタッフの人数をしっかり検討することが大切です。医院の規模や診療内容、診療日数・時間、患者数によって、必要なスタッフの人数は異なります。最初は最小限の人数でスタートし、業務量や患者数の増加に応じて増員を検討するのが一般的です。
開業時スタッフ人数例 (ユニット2~4台)

具体的な採用スケジュールを決める
早めに人材を確保し、開業までにスタッフ研修が完了するようにスケジュールを組んで進める必要があります。
求人広告への掲載は、少なくとも開業の3カ月前から始めましょう。面接から採用決定までに時間がかかると、優秀な人材を逃してしまう可能性があります。そのため、面接後は速やかに合否を決定することが大切です。採用が決まったら、開業までに研修・トレーニングを実施しましょう。期間は10〜14日程度を想定しておくことが理想的です。

採用活動
求人媒体 / 広告の選定
求人媒体や広告はそれぞれ特徴があります。求める人材に効率よくアプローチするため、各媒体の特徴を比較し、最適な手段を選びましょう。求人広告では、働きやすさや教育制度、職場の雰囲気など、医院の魅力を具体的に伝えることが大切です。
媒体 | メリット | デメリット | 対象 |
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ハローワーク |
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常勤者 |
求人専門誌・サイト・アプリ |
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常勤者 |
専門学校 |
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常勤者 |
人材派遣会社 |
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緊急対応 |
折り込みチラシ |
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パート アルバイト |
自院のホームページ・SNS |
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常勤者 パート アルバイト |
紹介 |
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常勤者 パート アルバイト |
現勤務先から |
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常勤者 |
採用基準の整理
スタッフに求めるスキルや経験を明確にするため、採用基準を整理しましょう。採用基準を決めて求める人材像を具体化することで、不要な選考やミスマッチを防ぎ、採用活動をより効果的に進めることができます。
基本的な判断項目
- コミュニケーション
- キャリア
- スキル
- 向上心
- 目標意識
- リーダーシップ
- マナー
- 医院づくりへの関心
- 思いやりの心
- 来院者の動機づけ など
職務別の選考ポイント
勤務医
応募者の歯科医師や歯科学生が希望する勤務条件や専念したい治療について、丁寧に確認することが大切です。医院が求める役割を明確にした上で、学べる治療や目指せるポストなどキャリアプランを具体的に提示し、採用後の認識のずれを防ぎましょう。
歯科衛生士
近年の歯科衛生士求人倍率は20倍以上※と高く、人材確保が難しくなっています。このような中で、歯科衛生士にとって働きやすい環境や良好な人間関係は重要な要素です。院長との相性や、他のスタッフとの協調性が期待できるかなどを見極めることが大切です。
※ 出典:「歯科衛生士教育に関する現状調査の結果報告」(一般社団法人 全国歯科衛生士教育協議会)
歯科助手
歯科助手は、患者さんや歯科医師、歯科衛生士と頻繁にコミュニケーションを取る役割を担います。そのため、コミュニケーション力やマナーは特に重要なポイントです。また、トラブルに対応できる柔軟性や、器具の取り扱いなど業務スキルの適性も判断基準の一つとなります。
受付スタッフ
主に来院者対応を行う受付スタッフには、患者さんの要望を正確に把握し、的確に応じる高いコミュニケーション力が求められます。そのうえで、カルテ整理や現金管理などの事務処理能力も重要な判断基準になります。
採用したスタッフの手続き
必要書類の整理
スタッフを採用した際には、歯科医院とスタッフの間でさまざまな書面を交わすことになります。採用時には、労働条件の明示や法定書類の手続きに加え、資格確認も必要です。必要な書類をそろえ、雇用開始前に十分な説明と確認を行いましょう。
主な書類
- 労働契約書
- 身元保証書
- 誓約書
- 通勤経路届
- 個人情報保護に関する誓約書
- 給与振込先届兼振込同意書
- 就業規律 など
人事管理
スタッフ管理には明確なルールが必要です。スタッフを採用したら、就業規則を作成しましょう。労働基準法では、常時10名以上の従業員を雇用する場合、就業規則の作成および労働基準監督署への届け出が義務づけられています。
就業規則を作成することで、職場のルールや業務上の心構えなどが明確になり、働きやすい環境づくりやスタッフの自覚を促す効果が期待できます。作成した就業規則は、配布やいつでも確認できる場所に掲示など、スタッフ全員が周知できるような仕組みにしておきましょう。
就業規則の基本的な記載事項
- 勤務時間
- 休日・休暇
- 有給休暇
- 社会保険
- 給与
- 解雇について
採用したスタッフの研修・事前トレーニング
開業までに採用したスタッフの研修や事前トレーニングも行いましょう。開業時は全員が初めての環境で患者さんを迎えることになります。十分に準備を整え、患者さんが安心して通院できる医院運営を目指しましょう。
受付から治療の流れを共有する
受付から治療までの流れをスタッフ全員が把握し、各段階での対応について同じ認識を持つことが大切です。理想は、全員が同じ基準と手順で対応することです。マニュアルを作成し、具体的な取り組みを行いましょう。

患者さんが来院した時のシミュレーション
スタッフと患者さん役に分かれ、本番を想定した各シーンでのシミュレーションを行います。シミュレーション後は内容を見直し、改善点を共有しましょう。これを繰り返し実施することで、診療の流れがよりスムーズになります。
シーン例 受付時
〈対応例〉
「お名前を承ります。」
「○○様でいらっしゃいますね。今日はいかがなさいましたか」
「保険証をお預かりいたします」
トレーニングポイント
- 笑顔と明るい声で患者さんを迎える
- 患者さんの名前を間違えないよう確認
- 初診・再診に応じた対応
機器・器具トレーニング
業務をスムーズに進めるには、スタッフが機器や器具の取り扱い、操作方法、メンテナンス方法を正確に理解し、習熟する必要があります。まずは機器や器具の名称と用途、基本操作を説明し、実際に使用して練習を重ねましょう。使用頻度が高い機器や器具については、定期的な復習を行うことが大切です。
スタッフ間の連携
歯科医院における診療の質や効率性は、スタッフ間の連携に大きく左右されます。診療の流れをスムーズにするためには、スタッフ一人ひとりが役割を理解し、互いにサポートし合う体制を整えることが重要です。また、患者情報や診療内容、業務状況の共有は、連携の基本となります。朝礼や定期的なミーティングの実施など、情報共有できる仕組みを作りましょう。

歯科医院の開業において、採用活動とスタッフ研修や事前トレーニングは非常に重要です。スタッフの成長が歯科医院の成長を支えます。計画と準備を丁寧に進め、開業の日に向けて万全の体制を整えましょう。