
- STEP 01情報収集・構想
- [検討時期の目安:開業24ヵ月~12ヵ月前]
開業する歯科医院のイメージ・コンセプトをかためる
ご自身で開業する歯科医院の、理想の姿はありますか? 「地域密着型として開業したい」「子どもを中心に診たい」など、イメージしている医院の姿があるのではないでしょうか。そのイメージを言語化したものがコンセプトです。今回は、歯科医院のコンセプトが大切な理由や考え方・つくり方、合わせて検討しておきたい開業形態などについて解説します。
目次
コンセプトが歯科医院開業において大切な理由
歯科医院におけるコンセプトとは、医院の特徴や目的を患者さんやスタッフなど関与する人々にわかりやすく伝えるものです。コンセプトは診療方針、医療サービス、患者さんへの対応、院内の雰囲気などさまざまな要素に影響します。それぞれの要素に一貫性を持たせることが「医院の特徴」を際立たせ、「患者さんや求職者が選びやすい」イメージの形成につながります。自院の強みや価値を生かしたコンセプトを決めておくことで、次のような効果が期待できます。


運営指針が定まる
医院経営には診療方針の決定や新たな機器導入、スタッフの採用など、数多くの判断が求められます。それらの場面において、コンセプトは運営の指針となり、意思決定の基準となります。スタッフにおいても医院が何を目指しているかが理解しやすくなることで、行動基準が生まれ、仕事へのモチベーションや責任感が高まります。医院全体で同じ考え方のもと業務に取り組むことは、結果として医療サービスや接遇マナー向上などに寄与し、患者さんに安心感や信頼感をもたらします。
集患(集客)効果につながる
コンセプトを決めることでどのような患者層をターゲットにすべきかが明確になります。ターゲットを考慮して、医療サービスや治療方針、プロモーションなどに一貫性をもたせることで、地域住民など歯科医院を探す人が「どのような歯科医院か」「何に力を入れているか」をイメージしやすくなります。結果として、ターゲットに近い患者さんを集患(集客)することにつながります。
歯科医院のコンセプトの考え方・つくり方
コンセプトの考え方・つくり方にはさまざまな手法があります。その一例をご紹介します。
STEP1 コンセプトとなるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を考える
歯科医院の目指す姿や目標を定義するために、ミッション、ビジョン、バリューを定めることが効果的です。ミッション・ビジョン・バリューは医院のコンセプトとして運営の土台となり、共感してもらうことで集患(集客)や人材採用につながります。まずは、開業への想いや目指したい歯科医院のイメージを言語化しましょう。
- Mission(ミッション)
- この歯科医院が社会で実現したいこと、開業理由、理想とする歯科医院の役割
- Vision(ビジョン)
- 目指したい歯科医院の姿、中長期の目標
- Value(バリュー)
- ミッションやビジョンを実現するために大切な価値観、行動指針
作成例
- Mission(ミッション)
- 地域住民の健康寿命を延ばすため、予防歯科を通じて口腔から全身の健康を支援する。
- Vision(ビジョン)
- 予防歯科を通じて、地域住民が自然と健康意識を高める仕組みをつくり、患者さんにとって「生涯通いたい歯科医院」となる。
- Value(バリュー)
-
- 患者さんに寄り添う診療とわかりやすい説明を徹底する。
- 予防中心の医療提供で、患者さんに健康の大切さを実感していただき、自らケアを続けられるよう支援をする。
- 職種と連携し、地域全体で健康を支える仕組みを構築する。
STEP2 コンセプトを基に具体的な要素を5W2Hで整理する
STEP1のMVVを達成するために必要な要素を5W2Hにもとづいて整理します。ご自身のつくりたい歯科医院がどのような場所にあるのか、患者さんはどのような方なのかなど、イメージを具体化しましょう。事業計画を立てる際の諸条件にも影響するため、ここまでは必ずおさえておきたい内容です。
整理する内容
- Why(なぜ)
- 開業する目的、理由
- What(何を)
- 具体的な医療サービス
- Who(誰に)
- ターゲットとする患者さん(年齢層、性別など)
- When(いつ)
- 開業時期、診療時間、休診日、年末年始
- Where(どこで)
- エリア、開業形態、競合医院の有無、人通りの状況
- How(どのように)
- 診療オペレーション、接遇、理想とする空間
- How much(いくらで)
- 保険適用、自由診療(補綴、矯正、インプラントなど)


STEP3 ポジショニングマップで競合となる他院に対する独自性を確認
自院と競合医院の市場(診療圏)での立ち位置を、ポジショニングマップで可視化します。ポジショニングマップは縦・横の2軸で構成される図で、軸には患者さんが歯科医院を選ぶ際に重視する、対照的で比較しやすい要素を設定します。これまでのステップで具体化してきた自院の強みをふまえ、自院と競合医院をマッピングすることで、ターゲット(患者層)や、競合医院の分析に役立ちます。
他院に比べて独自性を明確にすることで、プロモーションなどでアピールできるポイントが見つかる場合があります。


歯科医院の開業形態について
歯科医院のイメージをかためるにあたり、コンセプトの他に開業形態の検討が必要です。開業形態はこれから事業計画を立てる上で必要な資金や運営方針にも影響する重要な要素の一つです。
新規開業
新規開業では開業場所の選定をはじめ、設備の導入、スタッフの採用、広告・宣伝などすべてゼロからスタートできる点が特徴です。初期の手間とコストがかかりますが、コンセプトに合わせて柔軟に医院づくりを行うことができます。
居抜き、承継
後継者のいない歯科医院が増える中、注目されている開業形態です。「居抜き」はすでに閉院した歯科医院を引き継ぐ方法で、大規模な設備投資が不要なことが多く、開業コストが抑えることができるという大きなメリットがあります。「承継」は現在稼働している医院を引き継ぐ方法です。歯科医院の設備だけでなく、患者さんやスタッフなども引き継ぐことができます。ただ、どちらも引き継いだ機器が古いため買い替えが必要であったり、内装が老朽化していて修繕費が発生したり、コストメリットは小さくなることがあります。また、前医院の良くない評判やイメージを引きずってしまう可能性があり、新たなイメージを打ち立てられるかが課題になります。
親子承継
歯科医院の経営や運営を、親である現在の院長から引き継ぎます。すでに医院は地域に根付き、患者さんやスタッフがいるため、経営が安定しやすいのが特徴です。前院長の確立したイメージが定着しているので、コンセプトもそのまま引き継がれることが多いです。
それぞれの開業形態の特徴と比較
新規開業 | 居抜き、承継 | 親子承継 | |||
---|---|---|---|---|---|
戸建て | テナント | 医療モール | |||
立ち上がりまでの時間 | ★★★ | ★★ | ★★ | ★★★ | ★★★ |
物件情報の多さ | ★ | ★★★ | ★★ | ★★ | - |
準備期間の長さ | ★ | ★★ | ★★ | ★★★ | ★★★ |
コストパフォーマンス | ★ | ★★ | ★★ | ★★★ | ★★★ |
ブランディングのしやすさ | ★★★ | ★★ | ★★ | ★ | ★ |
のびしろ | ★★★ | ★★ | ★★ | ★ | ★ |
コンセプトや開業形態を決めたら、次は事業計画を立てる段階です。
これまでイメージしてきた理想の医院を開業するための必要な資金計画をたてるため、物件候補地の情報収集を進めておくとスムーズです。
決めたコンセプトを実現するための物件や運営を考えながら、開業準備を進めましょう。
