STEP 02事業計画
[検討時期の目安:開業12ヵ月〜6ヵ月前]

歯科開業の開業資金と、調達・融資先選定について

歯科開業にあたって、どのくらいの資金が必要になるのか、またどの程度の借入が必要かを、事前に把握しておくことは非常に重要です。必要な費用項目や調達方法の洗い出し、融資を申し入れる際のポイントを理解して、資金調達をスムーズに進めましょう。

開業資金の主な項目と費用目安

歯科医院の開業資金にはどのような項目があり、どれくらいの費用がかかるのかご紹介します。

土地取得の場合にかかる費用

〈費用目安〉単価(地域相場)×必要坪数

新たに土地を購入するときに発生する費用です。
費用は場所や広さによって大きく異なりますが、おおまかには単価(地域相場)×必要坪数で算出できます。駐車場を設ける場合は1台あたり5坪ほど必要です。地域や医院の規模に合わせて必要な坪数を検討しておきましょう。
また、不動産取得税や登記費用、仲介手数料なども考慮に入れましょう。

テナント入居の場合にかかる費用

テナントビルや商業施設、医療モールなどの物件を借りる際に発生する費用です。
礼金や仲介手数料などさまざまな費用が発生します。オーナーまたは管理会社に預けるテナント保証金は、一般的に賃料の6~12カ月分に設定されることが多いです。地域や物件の種類、貸主の条件によって異なります。契約条件をしっかり確認しましょう。いつから賃料発生するか、修繕費や解約に伴う費用などについても確認しておきましょう。

建築・内装工事費用

〈費用目安〉建築費130~190万円/坪、内装工事費80~110万円/坪

建築費用には建物を建てる費用+内装工事が含まれます。内装工事費用は内装の設計・工事費用を指します。
建築費の目安として、木造の場合は1坪あたり130~160万円、鉄骨の場合は1坪あたり150~190万円ほどかかります。建築費の他、設計料(建築価格の5~10%)や、地盤改良工事、外構工事の費用も見込んでおきましょう。内装工事費は1坪あたり80~110万円が目安です。医療機器の設置が必要になるため、専門的な知識を持つ業者を選ぶことが大切です。

医療設備・機器・材料費

〈費用目安〉約3500万円

開業時に導入する医療設備・機器・材料に関わる費用です。
一例として、ユニット3台、CTセファロ、機械室(フリーアーム)、その他小機械の導入にかかる費用はおよそ3500万円です。IOS(イントラオーラルスキャナー)を導入する場合はプラス400~500万円を見込みましょう。

歯科医師会 入会金

開業される地域での、歯科医師会入会に関わる費用です。
各地域の歯科医師会によって異なります。該当する都道府県や地区の歯科医師会のホームページを確認するか、直接問い合わせてみてください。

開業準備費

〈費用目安〉約500万円

物件や設備機器を除いた、開業準備に必要な費用です。
開業時に必要な備品や、スタッフ採用や広告・宣伝(チラシ、ホームページ、SNSなど)、地域の方々に向けて開催する内覧会などの費用です。

運転資金

〈費用目安〉約1200~1500万円

日々の診療や医院運営をスムーズに進めるために必要な資金です。
保険収入が入ってこない開業直後2カ月分の経費や、経営が軌道に乗るまでの赤字を補填するために用意しておく必要があります。

開業資金はどのように調達する?

歯科医院の開業は初期投資が大きくなるため、しっかりと資金計画を立てることが大切です。複数の手段を組み合わせて必要な資金を確保しましょう。

自己資金

ご自身の貯蓄などから準備する資金です。
開業にかかる全体費用の20%以上は用意しましょう。金融機関の融資面談では、預金通帳の写しなど、自己資金の存在を証明する書類の提示が求められます。

親族からの調達

ご自身ではなく、配偶者や両親などから支援を受ける資金です。
税務的な知識や判断が必須なので、開業後もお世話になる税理士に必ず相談をしましょう。借り入れの場合は、返済期間や方法、金利を明確に決め、契約書類を作成しておくことが大切です。

金融機関等からの融資(借り入れ)

銀行や日本政策金融公庫、ノンバンクからの融資による資金調達です。各金融機関等の条件(金利、借入期間など)や契約内容を比較し、ご自身に最適なプランを検討しましょう。

リース

リースは、大型の設備や機器を購入する代わりに、リース会社から借りて使用する方法です。開業時の初期負担を軽減するのに効果的な手段です。一方で、借り入れと比べ、割高になります。契約内容を十分に理解し、将来の計画と照らし合わせた上で利用を検討しましょう。

開業資金の融資 金融機関の比較

民間銀行 日本政策
金融公庫
ノンバンク リース
特徴
  • まとまった金額を調達
  • 地銀、信金が対象
  • 条件はさまざま
  • 政府系
  • 固定金利
  • 誰もが同条件
  • 融資条件は悪くない
  • 誰もがほぼ同条件
  • 手間が簡便
保証人
  • 原則、保証人なし
  • 配偶者orなしが原則
  • なし
  • 原則、保証人あり
  • 会社によって無担保無保証商品あり
  • 配偶者orお父様
  • 原則あり
  • 配偶者orお父様
担保
  • ある方が好ましい
  • 有、無OK
  • 無担保2000万円まで
  • 特に求められない
  • 特に求められない
メリット
  • まとまった金額を調達
  • 融資条件がさまざま、柔軟な対応
  • 安心感
  • 固定金利
  • 無担保無保証制度
  • 無担保でまとまった金額
  • 審査が早い
  • 融資条件はそう悪くない
  • 手間がかからない
  • 追加で枠が取れる
デメリット
  • 基本的には変動金利
  • 担保は地域限定
  • 審査に時間がかかる
  • 融資銀行は一行です
  • 無担保の場合、高金利
  • 親御様世代の評判悪い
  • 返済が困難な時、交渉が効きにくい
  • 信用情報重視
  • 手数料が必要
  • 再リース料が負担
  • 支払期間が短くなる

開業資金の融資 審査されるポイントは

金融機関は申請者のさまざまな要素を評価し、返済能力や事業成功の可能性を見定めます。審査されるポイントをおさえて、より有利に進めましょう。

自己資金

融資を受ける際には、自己資金の割合が重要です。金融機関は、自己資金が十分に準備されているかどうかをもとに、開業者の事業に対する責任感やリスク管理能力を評価します。

不動産担保

不動産担保とは、所有する土地、建物、マンションなどの不動産を担保として提供することです。返済が滞った場合に、金融機関が不動産を売却して融資額を回収します。担保となる不動産の評価額は融資額に直接影響し、評価額が高ければ融資額も増える可能性があります。

保証人

保証人とは、借主が万が一、融資の返済を滞納したり、返済できなくなった場合に、代わりに返済責任を負う人物や法人のことです。保証人がいることで、金融機関の融資のリスクが軽減するため、融資審査が有利に進む可能性があります。保証人の信用や資産状況も、査定において重要な要素となります。

過去の収入

融資審査において、過去の収入は、借主の経済的な安定性や返済能力を判断する要素となります。万が一事業がうまくいかなかった場合でも、借主が勤務医として安定した収入を得る見込みがあるかどうかが評価されます。

医院コンセプト・医院の強み

開業計画の初期段階で定めた医院のコンセプトを指します。
コンセプトが運営方針や医院の強みに反映されていることは審査において重要なポイントです。

事業計画の合理性

金融機関は、開業する歯科医院の事業計画がどれほど具体的で実現可能であるかを重視します。患者数の見込み、診療科目、ターゲット層、競合との差別化戦略など、各要素を詳細に計画し、融資が妥当であることや明確なビジョンがあることを示しましょう。

物件の立地

医院の成功において重要な要素である物件の立地も、融資審査の対象となります。開業予定のエリア周辺の人口や、商業施設や住宅街の近さ、ターゲット患者層のアクセスの良さ、競合医院との距離なども評価されます。

歯科医師の経験年数

医院の成功は、開業する歯科医師本人の経験や能力によるところが大きいです。そのため融資審査では、歯科医師としての経歴や、過去に勤務していた医院での実績が重要視されます。

本人親族の資産背景

融資審査では、借主本人だけでなく、親族の総資産や収入、職業、貯蓄、投資状況なども評価の対象となります。特に、親族が保証人になる場合や支援が期待できる場合、その資産や収入の安定性、信用状況が重視されます。

金融機関の歯科医院に対する融資姿勢

各金融機関によって、歯科医院に対する認識や融資の姿勢は異なります。歯科医院に対する理解が深い金融機関は、業界特有のニーズや問題点を把握しており、開業医にとって有利な融資条件やサポートを提供してくれる可能性があります。一方で、歯科医院をリスクが高い業種と見なす金融機関では、融資条件が厳しくなったり、融資を受けるのが難しくなることがあります。

開業資金調達モデルケース

各ケースの自己資金や条件に対する金融機関の評価や、どのような調達方法を想定されるか参考にしましょう。

A先生

自己資金:2000万円 担保:実家 保証人:なし
[融資の受けやすさ]

自己資金も担保もあるため、民間銀行に担保を入れて低金利で調達。

B先生

自己資金:2000万円 担保:なし 保証人:なし
[融資の受けやすさ]

担保・保証人はないものの、自己資金があり、事業計画がすぐれているので無担保で各金融機関から調達。

C先生

自己資金:300万円 担保:なし 保証人:開業医(または公務員)の父
[融資の受けやすさ]

自己資金が少なく、担保もないため、保証人である開業医(また公務員)の父親の取引銀行に相談。

D先生

自己資金:1000万円 担保:自宅(住宅ローンを組んだばかり) 保証人:専業主婦の妻
[融資の受けやすさ]

住宅ローンが目いっぱい残っている状態ながら、住宅ローンの2番抵当を評価してくれる民間銀行を軸に資金調達。

E先生

自己資金:300万円 担保:なし 保証人:専業主婦の妻
[融資の受けやすさ]

融資を受けることは可能だが、開業にあたっての明確なビジョンやコンセプト、診療圏調査の優れた結果など、何らかの強みが必要。

開業予定の物件が大方決まると、開業準備が短期間で進んでいきます。そのため、物件選びの段階から開業資金の調達に向けた準備が必要となります。早めの段階から歯科業界に精通した税理士に相談し、開業に向けて準備を進めていきましょう。

この記事の監修者

林 哲郎

ネクセンチュア・林会計事務所 代表税理士

≪経歴≫
関西学院大学 商学部卒業
関西学院大学大学院 商学研究科修了

医療機関に特化した会計事務所での勤務を経て、平成18年4月 ネクセンチュア林会計事務所開業。令和6年3月現在、歯科医院を中心として、約300医院の会計顧問を務め、毎年多数の歯科医院の新規開業の支援を行っている。

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