STEP 01情報収集・構想
[検討時期の目安:開業24ヵ月~12ヵ月前]

歯科医院開業の流れ

歯科医院の開業は、ご自身の理想の医院を実現する夢への挑戦です。開業までにさまざまなステップがあるため、成功に向けて慎重に計画を立てることが大切です。歯科医院開業を考える歯科医師の方々に向けて、業界の現状やメリット・デメリット、具体的な流れ、そして成功するためのポイントについて解説します。

歯科医師数と歯科開業医の割合

歯科医師数について

歯科医師の人数は、数十年間増加し続けていましたが、2022年に減少に転じました。近年、歯科医師国家試験の合格数も低下しており、今後も歯科医師数の減少傾向は続くと考えられます。

歯科医師数の年次推移

令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」(厚生労働省)を加工して作成

歯科医師の開業数の割合

このような状況の中、2022年度では歯科医院・診療所に従事する歯科医師90,257人のうち約54%の56,767人が開業しています。つまり、過半数以上の歯科医師が医院経営を選んでいます。

歯科医師の開業数の割合

令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」(厚生労働省)を加工して作成

歯科医院開業のタイミングは

歯科医師が医院を開業するタイミングは、「理想の歯科医院をつくりたい」という志が芽生えた時だけでなく、周囲の友人が開業したり、診療技術に自信がついたことがきっかけになることも多いです。ご自身の人生設計と合わせて、計画することが大切です。結婚や子育てなどのライフイベントをはじめ、資金の返済期間や体力面なども考慮し、最適なタイミングを見定めましょう。

歯科医師の開業理由・動機

理想の歯科医院をつくりたい 友人や周りの人が開業し始めたので自分も…… 親が引退する時期だからそろそろ引き継ごうかな?

開業のメリット・デメリット

開業のメリット

歯科医院を開業する最大のメリットは、自分の理想とする診療スタイルや方針を自由に決めることができる点です。理想とする診療を実現し、来院された方々の口腔の健康を守り、社会に貢献することで大きな充実感を得られるでしょう。また、医院経営の成功により収入の大幅な向上も見込めます。

開業のデメリット

デメリットとしては、多くの場合、医療機器の購入や医院の内装工事に多額の費用がかかり、金融機関などからの借り入れ金額も多くなります。特に開業初期は患者さんの数が安定せず、収益が不安定になりやすいと言えます。また、経営に時間を取られることでプライベートや自己研鑽に充てる時間が少なくなる可能性もあります。開業は人生のターニングポイントになる決断です。リスク面も把握しておくことが必要です。

歯科医院が標榜できる診療科目

歯科が標榜できる診療科目は「歯科」「矯正歯科」「小児歯科」「歯科口腔外科」の4つです。「予防歯科」「審美歯科」などは診療科目として標榜することができないので注意しましょう(医療法第6条の5)。

歯科

全年齢層を対象とした一般的な歯の治療を行う科目です。「歯科」は患者さんから見てもっともわかりやすく、基本的な診療科目です。「歯科」を軸にし、他の診療内容を掲げながら診療体制を整えることが多いです。

矯正歯科

見た目や口腔機能への関心の高まりから矯正歯科の需要が増えています。矯正治療を希望する患者さんは子どもから成人まで幅広い年齢層におよびます。治療に通常1〜3年以上の期間を要するため、定期的な通院が見込めます。また、多くの場合、保険適用外の自由診療となるため、医院の収益性が高まります。

小児歯科

子ども向けの治療やケアをアピールできます。子どもが通院することから保護者やご家族の方が利用するきっかけとなり、患者層の拡大につながります。さらに、患者さんが成人後も継続して通院することで、長期にわたる関係維持にも期待できます。

歯科口腔外科

歯科口腔外科は、歯科治療の中でも外科的な処置を専門とする科目です。親知らずの抜歯、インプラント埋入などの治療を行います。自院で外科治療が必要な患者さんにも対応できます。さらに他院からの紹介も受けやすくなり、新規患者層が広がります。

保険診療と自由診療のバランス

2023年の第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)によると、歯科診療所の医業収益のうち保険診療は76.1%、自由診療は21.4%とされています。保険診療と自由診療のバランスは事業計画にも関わります。自院で注力したい診療内容をふまえて、自由診療の内容を決めておくことで、収益の予測を立てやすくなります。

保険診療収益:76.1% その他の診療収益:21.4%
第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)(2023年)」(厚生労働省)を加工して作成

保険診療

日本は国民皆保険制度であるため、患者さんは医療費の負担が軽減され、必要な医療を広く受けられます。ただし、国によってルールが定められるため、保険診療を基本にしながら一部の治療において自由診療を取り入れるスタイルが一般的です。

自由診療

患者さんに保険診療に制限されない治療を提供することができ、医院が治療費を自由に設定できるため収益性が向上します。一方で、患者さんの経済的負担が多くなります。

開業の流れ

歯科医院を開業するまでの流れは大きく4つのステップに分かれます。一歩ずつ着実に進めましょう。

STEP01 情報収集・構想

情報収集

まず情報を集め、開業までのプロセスを理解しましょう。全体像を捉え、「いつまでに、何をすべきか」を把握することでおおまかな開業までの道筋を立てることができます。情報収集には、インターネット検索や、歯科関連の取引企業からの情報提供など、さまざまな手段があります。中でもおすすめなのが、開業セミナーへの参加です。専門知識を持つ講師から、開業に必要な基礎知識や最新の業界情報を学ぶことができます。また、同じ目標を持つ他の参加者や、開業を支援する専門家とネットワークを築くことができ、役立つ情報やアドバイスを得る貴重な機会となるでしょう。

開業する医院のイメージ・コンセプトをかためる

ご自身が理想とする歯科医院のイメージを具体化し、医院の特徴や目的を示す「コンセプト」を策定します。コンセプトは集患(集客)効果や開業形態、診療スタイルにも大きく関わり、医院の指針となります。

STEP02 計画

事業計画

医院のコンセプトから戦略を立て、資金繰りや運営の実現性を検討します。事業計画は融資審査の際にも必要です。段階ごとに修正を重ねながら、数字に基づいた実行可能なプランを作成します。

エリア、物件・テナント探し

事業計画をもとに、アクセスの良さや競合状況、地域特性、視認性、コストなどを考慮しながら適した物件を探します。その際に土地購入やテナント開業、戸建てやテナント、居抜き(承継)の開業形態の選択肢についても検討します。めぼしい物件が見つかったら診療圏調査で地域の集患(集客)のポテンシャルを確認します。

必要な資金・融資計画

開業に必要な資金を把握し、資金調達計画を立てます。開業資金には土地取得やテナント入居にかかる費用、内装費、設備費用、運転資金などが含まれ、総額が大きくなります。資金の調達方法には自己資金、親族からの借入、金融機関の融資などがあります。

歯科医院の建築・内装工事、設備

医院の建築・内装設計は、患者さんの満足度を上げ、スタッフが働きやすい環境をつくるために重要です。医院のコンセプトを反映することで、他院との差別化にもつながります。選定した医療機器や設備などから、必要な医院の機能やスタッフ、来院者の動線を考慮したゾーニングを行います。そのうえで各フロアの用途や規模に応じて建築・内装設計を決定していきます。

STEP03 準備・手続き

歯科医療機器、什器・備品をそろえる

医院運営に必要なものは、医療機器・設備から事務用品まで幅広くあります。開業直前に慌てないように、事前にリストを作り、一つずつ確認して準備をします。

スタッフ採用とトレーニング計画

事業計画にもとづいたスタッフ数を基準に採用活動を行います。さまざまな求人媒体や広告の中から最適な手段を選び、医院の魅力を効果的に伝えましょう。選考にあたっては、採用基準を事前に整理しておくことで、スムーズな採用につながります。スタッフを採用した後は、必要な手続きを行うとともに、開業に向けた研修やトレーニングの計画を立てましょう。

集患(集客)のための広告・宣伝

効率よく医院の存在を知ってもらい、集患(集客)につなげる方法を検討します。
認知度向上や接点拡大などの目的に応じて、オンライン・オフラインの中からどのような手法をとるかを考えます。
開業前には内覧会の開催やチラシの配布、ホームページやSNSの開設を行い、開業後もイベントの実施や看板設置、ホームページやSNS広告などを活用して患者さんとの接点を増やします。
医院の強みをアピールするために、立地や歯科医院の特徴に合った方法を選びましょう。

開院の手続き

不動産業者との契約や、保健所や厚生局への書類提出など、開業に向けてさまざまな手続きがあります。必要な手順や期限を把握し、不備なく手続きを行いましょう。

STEP04 開業直前準備(1カ月前くらいを想定)

いよいよ開業前の最終段階です。スタッフとともに、開業後の運営シミュレーションを行いましょう。

  • スタッフトレーニングの実施
  • 運営シミュレーション
  • 内覧会の実施

上記とあわせて、スタッフの教育プログラムやミーティングの計画など運営準備もできる限り行っておきましょう。

歯科医院の開業で成功するために

開業後は、歯科医師として患者さんと向き合うだけでなく、経営者としての役割も担います。
医院を成功させるため、日々の経営で押さえておきたい3つの要素をご紹介します。いずれも時間や費用といったコストがかかりますが、何に投資をするかが経営者としての手腕が問われるポイントです。適切な投資は安定した経営をもたらし、患者さんやスタッフの満足度向上・信頼関係の構築にもつながります。常に情報収集を行い、研鑽に努めましょう。

1.マーケティング(市場理解)

医院の経営には集患(集客)が不可欠です。新規患者の獲得や既存患者の再来院など、目的に合わせて「より収益や満足度を上げる」ためにどのような施策を実施すべきか、マーケティングの視点を持つことが大切です。

2.診療技術

医院の経営を安定させるには、歯科医師や歯科衛生士による安定した医療サービスの提供が不可欠です。医療は日々進歩しているため、医院全体での診療技術の習得や研鑽を積むことが重要です。その医療サービスを提供することが患者さんの満足度を高め、医院への信頼につながります。

3.人事

スタッフは、医院経営において非常に大事な存在です。スタッフの採用や長期雇用のために、教育システムの構築、福利厚生の充実、適正な人事制度など、人事面での工夫が必要です。
医院経営において、院長は多岐にわたる意思決定を求められます。日々の診療に流されず、経営について考える時間を確保しましょう。また、経営者として現状の問題や課題の解決だけでなく、10、20年先の歯科医院のスタイルや目標を見据え、長期的な視点で計画を立てることも大切です。

マーケティング 人事 診療技術

歯科医院のこれから

歯科衛生士や歯科技工士などスタッフの確保が課題

最初に紹介したように歯科医師の開業比率は56%であり、医科の24%に比べて高い割合を示しています。しかし今後はこの比率が減少していく可能性が高いと考えられます。
主な理由として挙げられるのが、スタッフ雇用にかかるコストの増加です。労働人口の減少に伴い、歯科衛生士や歯科技工士の求人倍率は年々上昇しています。雇用のためには求人広告や給与、社会保険料にくわえ、各スタッフの成長をサポートする教育・研修などの費用も欠かせません。これらにかかる費用をまかない、経営を安定させるには、十分な資金が必要です。そのため資金力のある大型医療法人に人材が集中する状況になっています。

検診目的による歯科受診が増加

数十年前は日本の13歳児のDMFTは4.9本でしたが、近年は0.7本まで大幅に減少しました。また、80歳以上の8020達成者が半数を超えました。そのため歯科医院の治療内容はう蝕、歯周病の治療から、口腔機能の向上や維持に徐々にシフトしています。また、生活者の口腔ケア意識の向上により、検診目的で歯科を受診する患者数が増えています。現在、国で導入検討がなされている国民皆歯科健診により、さらに歯科医院に来院する生活者が増えると考えられています。

1人平均DMF歯数(DMFT指数)の年次推移
(永久歯:13歳)

※1993年以前、1999年以降では、それぞれ未処置歯の診断基準が異なる
令和4年 歯科疾患実態調査結果の概要」(厚生労働省)を加工して作成

過去1年間に歯科検診を受けた者の割合の年次推移
(20歳以上、男女計)

過去1年間に歯科検診を受けた者の割合の年次推移(20歳以上、男女計)
令和5年 国民健康・栄養調査結果の概要」(厚生労働省)を加工して作成

人材採用をうまくできる歯科医院づくりが鍵に

患者数は増加傾向にありますが、スタッフの採用難易度が上がっている現状では、長期的に見ると「いかにスタッフ採用がうまくできるか」が医院運営の大きなポイントになります。
経営の安定や資本の強化、働きやすい魅力的な医院づくりなど、さまざまな方法が考えられますが、いずれにしても「開業後は早期に経営基盤を整え、医院を発展させる」ことが重要です。
開業にあたっては、将来的な見通しも含めて相談ができる経営パートナーを見つけられると安心です。

SHARE

開業を支援する多数のメニューをご用意しています。